GW中の5月2日(日)に行われた、ダブ・エンジニア/ミュージシャンSCIENTISTのトークライブを観に、南青山のDOMMUNEに行ってきた。ゲストは前日のライブでも共演したこだま和文さん。
トークライブも面白そうだったが、DOMMUNEの内部に興味があった(DOMMUNEについてはこちらのまとめも参照)。DOMMUNEのUstreamは、L?K?OのDJの回で知ってから何度か見ていた。今回はこだまさんの話が聞けることもあって、生で見たい気持ちが強く、DOMMUNEからのツイートを見てすぐに応募した。当日の昼に予約受付、夕方に当選通知のメールが届き、夜には本番という、観覧までのタイム感がなんともDOMMUNEらしい。
DOMMUNEの場所は南青山のオウム旧東京総本部の向かいで、渋谷からも表参道からも恵比寿からも等しく離れた地点にある(→地図)。1Fにカフェがあるビルの地下へ続く階段に、渋谷のラーメン一蘭みたいに列を作って待つこと数分。ドアが開き、入口で入場料1000円(安い。ちなみにドリンクも、ビールが500円〜とリーズナブル)を支払って中へ。DOMMUNEのアイドルでもある警備犬のティーヴィーが可愛い吠え声で迎えてくれた。
中に入ってみての第一印象は「狭い!」。ウチで仕事部屋+食卓に使っているLDK(12畳くらい)と、フロア部分の広さが感覚的にほとんど変わらず。DJブースやバーカウンターなど隅々までクラブ仕様に作り込まれているものの、雰囲気としてはクラブ/ライブハウスと部屋の中間、ちょい部屋寄りといった感じ。その「狭さ」ゆえにもたらされる親密な空気が小さなハコの中に満ちていたように思う。そしてその空気はUstを介して、広大なネット空間にも同時に開かれている。
ストリーミングは自分の座席から確認した限り、最高4台のハンディカムを使って行われていたようだった(トークライブ中はもう一台の大型カメラが回っていた)。オーナーの宇川直宏さんが、主に出演者が座るボックスソファーの正面にセットされたカメラの前に立ち、時折横の液晶テレビに流れるUstのTwitterを眺めつつ、全体の統括やスタッフ・出演者への指示をてきぱきと行う。タイムラインの反応を見ながら、リスナーの要望にその場で応えたりもする。終始おおらかな感じでぴりぴりした空気は一切無い。DJ中の映像は宇川さんが自ら編集室に入り、ハンディカムからの映像とコンピュータによるエフェクトを、その場で即興的につないでいく。
生放送だからトラブルとは常に紙一重で(針折れ→差し入れの件が伝説)、この日も用意していた前日のSCIENTISTとこだまさんのライブ映像が、放映直前に再生できないことが判明し、その場で急きょレンダリング→映像が上下反転、といった出来事があった。そういった放送事故さえも一種の「メディア・アート」として取り込んでしまう柔軟性が宇川さんの中にあって、それを出演者・参加者・ネットの向こうのリスナーも一緒になって面白がっているような感じだった。
日本中で一握りの人しか知らないような音楽や文化を紹介するラジオ番組は、2〜30年前だったら可能だったに違いないが、いまや大手の局ではほとんど聴けなくなってしまった。それがUstreamとTwitterという新しいメディアの力を得てこういう形で再び成立するのはとても面白いことだと思う。粉川哲夫さんが古くから提唱していた「自由ラジオ」の最新型という感じも。実際スポンサーが存在するにせよ、宇川さんが金銭的にも労力的にも相当持ち出ししていることは想像に難くなく、普段の仕事はどうしているんだろう?とか、いつまでこの形で続くのか…とか余計な心配をしてしまうけど、そういうことも含めて、DOMMUNEは毎晩一夜限りの面白い出来事が起こって、タイムラインとともに速攻で人々の記憶から消えていく(ログをあとに残さない)設定の「メディア・アート」なんだろうなと改めて思った。
この日のトークライブについて全く触れずにここまで来てしまったけど、ゲストのこだま和文さんの話が圧倒的に面白かった。ダブについての考察(引き算の音楽であることなど)は、グラフィックデザインの仕事にも通じるものがあった。発売されたばかりのエッセイ集『空をあおいで』にサインしてもらいつつ、古くからのファンであることを告げて二言三言交わすことができた。普通のライブハウスではたぶん声なんてかけられなかったはずで、これもDOMMUNEの狭さ/親密さのおかげだと思う。
ところで、入場者の多くがiPhoneを片手にツイートしたり写真を撮ったりして実況しながら、トークを聞いたり踊ったりしていて、それがとても自然で現在的だと感じた。ロックフェスなんかも以前は撮影禁止とか言われてた気がするけど、もうそんなの古いと思う。このレポートみたいなのも「行ってきた」とか過去形じゃなく、本当はその場で(=「なう」)どんどん実況していくべきなのだ。スマートフォンはそれを可能にしてくれる(ケータイでは不足)。この夜ほど、iPhoneをうらやましく思ったことはなかった。