
2025年2月8日(日)夜、仙川のギャラリー&ショップ、ツォモリリ文庫で、パレスチナ西岸地区とイスラエルを現地取材した映像「“壁”の外と内」の上映会が行われた。映像は、元朝日新聞社の記者で長年中東の問題を取材してきたジャーナリスト・川上泰徳さんが、半年前の2024年夏に撮影したもの。主催は仙川のシェア型書店・センイチブックスで、下山はイベントのフライヤーデザインに携わった。
タイトルの「“壁”」は、パレスチナとイスラエルを隔てている「分離壁」を指している。分離壁の実体は冒頭数分にわずかに紹介されるだけだが、パレスチナとイスラエル、アラブ人とユダヤ人、それぞれへの取材を通して、目に見えない「壁」がこの地区に張り巡らされていることが伝わってくる。
壁の「内」側がイスラエルで、「外」側がパレスチナ。一般的な地理的解釈とは真逆になる。壁は、イスラエルという国家が、パレスチナの存在自体や、その向こう側でどんな残虐な行為が行われているかを、一般市民から隠すために作られたもの、というのが川上さんの見立てということになる。
カメラは終始、ただ淡々と市民の声を、表情を次々に捉えていく。軍事的な殺戮(戦争)が現在進行形で行われているガザ地区に入ることはできない。したがって、映像にはSNSで時折流れてくる、出血を伴うような凄惨な被害の様子までは収められていない。
しかし、だからこそショッキングな映像では捉えることのできない、現地で生活する人々の「日常」とその過酷さが、対話を通してダイレクトに伝わってくる。取材を受けた住民たちの止まらない怒り、嘆き、声の強さが心に突き刺さる。
その一方で、壁の「内」側にいるイスラエルにも、パレスチナとコンタクトを取ろうとする市民団体やジャーナリスト、軍への徴兵を拒否する若者など、いろいろな立場の人がいることがわかる。
これから映像を観る人のために具体的な内容の列挙は避けるが、一点だけ。イスラエルが支配するパレスチナ自治区の西岸地区での、アラブ人(先住者)居住地への違法入植、「前哨地」の問題が取り上げられていた。
イスラエル政府の支援を受けたユダヤ人入植者が、羊飼いなどで生計を立てるアラブ人の広大な土地を、銃と暴力で略奪する。家や学校が、ある日突然重機で破壊される。その土地(入植者の居住区は別の小高い丘の上にある)ではイスラエル軍が勝手に演習を行い、放置された爆弾や地雷に触れたアラブ人が怪我をし腕を失う、などの痛ましい事故も起こっている。
とくに戦争が始まった23年10月以降、このような違法かつ暴力的な形での「占領」が大幅に増えたという。イギリスのBBCによる取材映像も残されている。入植地については、朝日新聞の記事が詳しい。
映像を観終えて、イスラエルに対して、映像を観る前と比べて100倍以上の強い怒りが沸き上がるのを感じた。そこには理解を寄せるべき理由や道理が1ミリもなかった。パレスチナの人々をなぜ執拗に殲滅するのか? 古くから被差別民族だと決まっているから(「あいつは、被差別民族出身だから」)。聖書にも書き込まれているから。アメリカなどのキリスト教圏も含めた西洋諸国が目を瞑るのは、その程度のことでしかないと自分には思える。「その程度」がひとつの民族に対して何をしてもいいという理由には、当然なり得ない。
フライヤーのデザインで、パレスチナの国旗の色(黒・赤・緑)で着色した情報の周囲をイスラエルを象徴する紺色の枠で囲み、「壁」を表現した。右側にある2つの隙間は、エレズとラファ、人が通行可能な2つの検問所に見立てて「対話」の可能性に賭けたつもりだった。
しかし実際に映像を見て、この地域において「対話」が生じる可能性は限りなくゼロに近いと感じられた。壁の隙間はこんなに広くないし、あったとしてもそれは目に見えない蜘蛛の糸のような細さでしかない。
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知り合いなどで、国内でパレスチナ関連の、とくにガザへの連帯を表明する抵抗運動を行う人々に、この映像を観てほしいと思った。脚色や誇張のない、彼らの生の声をひとりでも多くの人に聞いてほしい。みんなの感想が聞きたい。
……そんなことを思っていたら、今月(2025年2月)の22日(土)・23日(日)の2日間、西荻のことカフェ(今回のフライヤー配布に協力いただいた店舗のひとつ)で「“壁”の外と内」上映会が開かれることが決まった。
“壁”の外と内(川上泰徳)上映会+トーク
2024年2月22日(土)・23日(日)
13:30〜16:30(13:00OPEN)
西荻シネマ準備室(西荻のことカフェ2F)

最後に、フライヤー配布の呼びかけに快くご協力くださった店舗の方々に心から感謝します(配布順)。
主催のセンイチブックス、会場のツォモリリ文庫にも。
MOMO(新大久保)
麺屋どうげんぼうず(新中野)
西荻のことカフェ(西荻窪)
BEER&CAFE ベルク(新宿)
古書ほうろう(上野)
