下山ワタル|ピーグラフ

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小沢健二が『So kakkoii 宇宙』で結ぶ、君と僕との「約束」

音楽を聴く時、リズムやメロディのような楽曲の外形的な要素にばかり耳が行ってしまうことが多い。やれこの曲はフィリーソウルだ、とかEDMやベースミュージックの影響を受けているとか、このベースラインは誰々のあの曲へのオマージュだとか。

いつしか歌詞について考えることは、自分の中でも二の次、三の次になってしまった。洋楽でも邦楽でも基本的に歌詞はほとんど見ないし、ヴォーカルはリズム楽器のひとつ、くらいに捉えていたこともあった(それでもハロプロを本格的に聴くようになり、MVを見てつんくの書く歌詞に染まってからは随分変わったと思うけれど)。

そんなぼくにも、小沢健二の新作『So kakkoii 宇宙』の歌詞における、小さくて大きな変化をすぐに感じ取ることができた。

……「約束」が増えたな、と。
 

人気のない路地に確かな約束が見えるよ
──「流動体について」

それは君と僕との約束を乗せ
オオカミのように 月に吠える

──「シナモン(都市と家庭)」

君が僕の歌を口ずさむ
約束するよ そばにいると

──「薫る(労働と学業)」

 
たった3曲?と思うかもしれない(自分でも思った🙂)。でも、それまでの長い小沢健二の活動史の中で「約束」というワードが歌詞に出てきたのは、「天使たちのシーン」の客観的な風景描写の中の一回(「大きな音で降り出した夕立ちの中で 子供たちが約束を交わしてる」)だけだった。

それが「流動体」「シナモン」と、アルバムのための新曲「薫る」で一気に3曲も増えた。これはやはり、何か新しい変化の兆候と捉えるのが自然ではないだろうか。
 

 
『So kakkoii 宇宙』は、「彗星」の歌詞に「1995年」という西暦年が出てくるためか、『LIFE』や当時のシングル曲と比べて論じられることが多いように感じる。

タモリが終了間際の「笑っていいとも!」や最近のMステでも語ったように、小沢健二の歌詞には常に「全肯定」の思想がある……ということらしい。しかし、その「全肯定」のありようや強度に関して、たとえば『LIFE』の頃と現在とでは大きく変わったように思えるのだ。

タモさんもいいともで引き合いに出していた「さよならなんて云えないよ」の歌詞。
 

左へカーブを曲がると 光る海が見えてくる
僕は思う! この瞬間は続くと! いつまでも

 
この少し前には、実はこんな言葉も書かれている。
 

“オッケーよ”なんて強がりばかりを僕も言いながら
本当は思ってる 心にいつか安らぐ時は来るか?と

 
時代的狂騒、パーティーや恋人同士のいつまでも続くような「奇跡」的で「刹那」的な今のこの瞬間。小沢健二の歌詞の主人公は、目の前の光景を全力で肯定する一方で、そんな時間にもいつか終わりが来るかもしれないことを心のどこかで察知しつつ、その(不)確かさを常に問い続ける。
 

たぶんこのまま素敵な日々がずっと続くんだろ
──「ドアをノックするのは誰だ?」

今のこの気持ちほんとだよね
──「強い気持ち・強い愛」

この線路を降りたら
虹を架けるような誰かが僕を待つのか?

──「ある光」

 
結婚だって、「約束」だなんてそれはちょっと。
 

僕をじっと見たってダメだよ 結婚してってそれはちょっと
決定だねってイヤだよ 一緒に住んでやめときなって

──「それはちょっと」

 
今という瞬間への強い肯定を表明しながらも、それが永遠に続く保証や、まして「約束」までは与えることはできない。「たぶん」このまま、ずっと続くだろう、と言えるまでがせいぜい。それが90年代までのオザケンだった。もっともそれこそが多くの人々を永遠に引きつけてやまない、小沢健二の楽曲・歌詞の大きな魅力だとぼくも思うし、みんなもそれを知っている。

しかしここに来て、そんな小沢健二が「約束」というこれまでになかった強い言葉を(主体的な意味で)使うようになった背景には、外国生活を経た経験と見聞がもたらした人間的成長や心境の変化もさることながら、「子ども」という人生の共同制作者を得たことが最大級に強く深く影響しているのではないだろうか。

「薫る(労働と学業)」なんて、ひとたび「君」=子ども(りーりー)に置き換えると、その恋人同士よりも眩しい時間に目のやり場をなくしてしまいそうになる。視覚と触感に強く訴える自作のCDパッケージも(ブルーノ・ムナーリの作品のような)「しかけ絵本」そのものだし。

……と、ここまで短い考察を重ねたところで、あとの複雑な仕事は評論家や熱心なオザケンのファンのみなさんに委ねたいと思う。

それにしても、ジャケット表紙に息子の写真なんてどんだけ〜☆(theジャイアント)と半分呆れつつも、自分も思い起こせば娘が生まれて数年間、毎年年賀状が娘の写真でしたと白状。

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