Kiiiiiiiにとって初めての本格的な野外フェスであり、毎年バンコク市内で開かれるロック・フェスティバル「Heineken FAT FEST FIVE」を観に行くこと。これが今回の旅の殆ど唯一の目的だった(気がする)。
FAT FESTとバンコクでのロックの盛り上がりは、KiiiiiiiのLakin’が出演するラジオ番組「FAR EAST SATELLITE」でも何度か取り上げられていた。去年は、フェスを観に行ったLakin’が偶然、現地の電子音楽ミュージシャンのステージに飛び入り参加した、なんて出来事(こちらとこちらで)もあった。そして今年は初めてKiiiiiiiとして、FAT FESTのステージに上がることに。結成して2回目のライブからずっとKiiiiiiiを見続けてきたファンとして、今回のバンコクはどうしても行かないわけにはいかなかった。
2005/11/05
Kiiiiiii@Heineken FAT FEST FIVE
Fat FestivalはバンコクのFMステーションFat Radioが主催し、ビール会社のハイネケンがスポンサーを務める、今年で5回目になるロック・フェスティバルである。今年は、主にタイ国内と日本を含む国外から100を超えるバンドが参加した。会場は毎年変わるらしく、今回は2000年に閉鎖されたタイ最古のテーマパーク「デンネラミット」の跡地。ほとんどが芝生とコンクリートだけの平坦な広場だったが、Kiiiiiiiが登場したCastle stageの後ろには当時の名残りのお城がそのまま残っていたりして、ちょっと不思議な雰囲気が漂う(ロゴにお城が描かれているのはそのため)。
地下鉄パホンヨーティン駅からタイ特有の屋台が並ぶ道路脇を歩いていくと、巨大なスーパーマーケット「テスコ・ロータス」が見えてくる。このあたりはフランス資本のカルフールほか複数の巨大スーパーが通りをはさんで向かい合う、外国資本による郊外型スーパーマーケットの激戦地らしい。バンコクにはいま、外資がものすごい勢いで流入している。2004月に開通したばかりの地下鉄も円借款で作られたものだというし、このフェスの開催もハイネケンの出資によるところが大きいのだろう。そのハイネケンの緑色が目立つビルボードが見えてきた頃、歩道は会場に向かって歩く人々で身動きがとれないくらいの賑わいになってきた。
会場隣のチケット売り場(警察署の庭)で1DAYチケットを購入し、入口へ。受付の列に並んでいると突然、スコールみたいな大粒の雨が降ってきた。用意してきた合羽をここぞと取り出して身に着けふと周りを見ると、合羽はおろか傘の用意をしている人さえ皆無に近い。みんな揃って近くのテントに避難している。逃げ切れなかった人はそのまま濡れっぱなし。逆に合羽を着ているぼくの方が珍しい存在に。これが噂の“マイペンライ”(大丈夫)なタイ・スタイル。雨はすぐに止み、合羽を脱いで入場した。
案内図をもらってしばらく中を歩いてみた。FAT FESTは、3つのステージと、映像やヘッドホンDJ(上の写真=DJブースの周りにぶら下がったヘッドホンを耳につけてクラブ・ミュージックを聴く、不・思・議なスペース)などのブース、タイ屋台が並ぶフード・コート、そしてインディー・レーベルや個人によるグッズやミニコミのマーケットで構成され、どこも10代から20代の若者で賑わっている。フード・コートやグッズ・マーケットを見ていると、ロック・フェスというより田舎の夏祭りか高校の文化祭みたいな雰囲気。タイ屋台で20バーツ(日本円で約50〜60円)のヌードルや肉ご飯を注文し、次々とたいらげる。なかなかおいしい!
会場に入った頃からいくつかのバンドが演奏していたが、そこまでの時点でぐっと来るアクトは正直なかった。もう一品タイ・フードを買って近くのテーブル席で食べながら、Kiiiiiiiの出番の17時50分まで1時間半以上、どうやって時間をつぶそうかと考えていたら、突然、目の前にあるCastle stageから大音量で「4 little Joey remix」が流れてきた。あれ? なんでこんな時間に、と思いステージを見ると、飾り付けをしているKiiiiiiiの姿が! 食べかけのタイ・フードをテーブルに置いたまま、猛烈な勢いでステージへ走った…。
ライブスタートの時点でかなりの観客がステージの前方に群がっていた。Kiiiiiiiのことは以前から噂になっていたのか、もしくはたまたまこの場で見て興味をひかれたのか……観衆はどんどんふくれあがり、最終的に少なく見積もっても1000人、あるいはそれ以上の人々がステージの周りに集まった(注:記者発表=3000人!)。おそらくほとんどがタイ・ピープル。Kiiiiiiiがこんなに大勢のオーディエンスの前で演奏するのは初めて。おまけにここは異国のバンコク。考えてみたらとんでもなくスゴイことが、この場で起こっているのだ。
数もさることながら、Kiiiiiiiのライブでこんなに熱くて力強い観客の反応を見たのも初めてのこと。英語がわかるからか、みんなKiiiiiiiの歌に込められたユーモアとシニシズムにちゃんと反応して、笑い、拍手し、歓声を上げている(もちろん歌詞だけでなく、可愛さとエネルギッシュなパフォーマンスにも!)。
笑いや歓声のポイントも、日本と同じだったり、微妙に違っていたりして面白かった。
思い出す限りでも「carp & sheep」のイントロの台詞のところ、「kk lala」の曲の途中、「aluete samba」や「dancevader biber-hill pop」etc.…。誰でも知っているトラディショナル・ソングやポップスを引用した曲やフレーズのところでは、決まって大きな歓声や拍手が沸き起こった。曲の途中でジャズの演奏みたいに大きな歓声や拍手が起こるのは、日本では見られない光景だった。
「Aussie O’s bomb」のイントロでu.t.が刀を抜くパフォーマンス、「words of wisdom」の髪を櫛でなでつける仕草や最後のキーボードの回転プレイ、「wishing the penguin star」でlakin’ がワニのおもちゃを腹話術みたいに動かすところでは、日本と同様に大きな笑いと歓声が起こっていた。
「we are the BAD」では2メートル以上もあるステージから飛び降りたり、前に並ぶモニター・スピーカーを蹴落とそうとしてスタッフ(とlakin’)を慌てさせたり……u.t.のパフォーマンスはこの日、ワット・ポーの仏像みたいにキラキラと輝いてみえた。
ライブはあっという間に終了し、ステージ裏にはサインや記念撮影を求めるファンの姿が。あとでわかったことだが、KiiiiiiiのBBSや日記にはタイのファンからのコメントが次々と並び、Fat Radioのサイトのウェブフォーラムには「Kiiiiiii見た?」的書き込みが殺到していた。バンコクの若者たちがぼくや日本のファンと同じように、Kiiiiiiiのライブに興奮を感じたのは明らかだった。
考えてみたら、タイ・ポップスのアイドル並みにチャーミングで、それでいてパンキッシュでクール、しかもテーマパークみたいに楽しくて面白くかつ刺激的でサービス満点のKiiiiiiiのステージが、あの刺激に満ちたバンコクで日常を過ごす若者たちに受けないわけがない。アイドルも、パンクスも、テーマパークも世界中にたくさん存在する。でも、それらをすべて満たすKiiiiiiiのようなバンドは、きっと世界中どこを探してもいないだろう(少なくともタイにはいなかったはず)。この日FAT FESTでKiiiiiiiを観た約3000人のバンコクっ子たちは非常にラッキーなことに(もしかしたら日本の多くのロックファンよりも早く)、“それ”に出会ってしまったのだ。