下山ワタル|ピーグラフ

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レイ・ハラカミさんの思い出

──yanokami名阪公演のチラシをデザインした(2008)。アートワークは浜田武士+坂本奈緒さん。

 
レイ・ハラカミの音を初めて聴いたのは、毎号買っていたクラブミュージック系の雑誌「GROOVE」の付録CDに収録されていた曲だった(「Device Versa」だと思うけど記憶違いかも…。ソニーから出ていた『Pacific State』というコンピレーションにも収録されていた)。それと前後して彼の所属するSUBLIME RECORDSのコンピレーション『Sublime – The Adolescence』に入っていた「Rho^2」という曲を聴いて衝撃を受けた。当時(1998年)すでに「Rei Harakami ep」というアナログシングルでデビューしていたが、CDプレイヤーしか持っていなかったので、ファーストアルバム(『UNREST』)を待つ間は上記の2曲を繰り返し聴くしかなかった。「教授(坂本龍一)の再来だ」と色めき、そんな感想をSUBLIME RECORDSのBBS(懐かしい)に投稿した記憶がある。そんなわけで、数年後矢野顕子さんとユニットを組むことになるのも、自分の中ではごく自然な成り行きのように感じられた(勿論この頃は想像もできなかったけど)。

アルバムで好きなのは『UNREST』『lust』。『UNREST』は、アヴァンギャルドな感性とクラブシーンや商業音楽との折り合いの付け方が丁度良く、大げさだが坂本龍一『B-2 UNIT』の代替物として何度も聴いた。『lust』は、『red curb』で明確に打ち出した前衛性とポップな要素+叙情性が絶妙に同居する文句無しの最高傑作だった。「owari no kisetsu」のヴォーカルを聴いてやはり教授だな、と。確か『lust』の頃から京都だけでなく東京など各地でもライブを行うようになり、いくつかのイベントやロックフェスにまで足を運んだ。レイ・ハラカミの音色が生で聴ける喜びもさることながら、あのタオルで汗を拭きながらマイク片手に行う、その美しい音楽を180度裏切るMCにも度肝を抜かれた……というか爆笑した。

矢野顕子さんの仕事の関連で一度だけ軽くご挨拶した記憶もあるけれど、ほとんど面識はないに等しく、ただ一介のファンにすぎなかった。デビューからファンとして注目し続けていた彼が、ツアーパンフの仕事で関わっていた矢野さんと、yanokamiとして一緒にユニットを組むことになったのは心から嬉しい出来事だった。その誕生の助走となったさとがえるコンサートの公演も、幸いにも会場で直接体験することができた。

レイ・ハラカミ急逝、というニュースを正直いまだに受け止めることができない自分がいる。いまも例の調子で「絶賛盛り下げ中です!」とかハンドマイク片手に観客を笑わせている姿が瞼の裏に浮かんでくる。本当に笑えないくらい「絶賛盛り下げ中」ですよ、ハラカミさん……。3月のあの日以来立て続けに起こる大惨事や訃報の数々に紛れて、このままなかったことにして忘れてしまおうかとも一瞬考えたけど、それも虚しいし悔しいので、記憶が薄れてゆくことへの精一杯の抵抗として、個人的な(レッドカーブの)思い出を記しておこうと思う。旧ブログに書いた、yanokamiの助走にあたる2回のさとがえるコンサート公演とrei harakamiワンマンライブの感想も、記録としてここに残しておく。「さようなら」はもう少し先までとっておきたい。

MEMO
──http://www.rei-harakami.com/
──http://www.yanokami.com/

──ライジングサンだったわけで。|rei harakami blog
集合写真1枚目前列中央やや右寄りにぼくが写っている(ウォーリーを探せ)。
2005年8月20日、RISING SUN ROCK FESTIVAL 2005にて。
 

 
Album Review – Rei Harakami|Red Curb(野田 努/ele-king)
──素晴らしい追悼記事。こんなふうに綺麗にお別れが言えたら。

yanokami新曲「Bamboo Music」配信リリース(ナタリー)
──シルヴィアンが矢野さんで、教授がレイ・ハラカミ? まさかのセカンドアルバムも出るかもしれない(追記:出ました)。
 


 
2003.12
さとがえるコンサート2003@NHKホール

矢野顕子さんの年末恒例のさとがえるコンサートは毎年観に行っている。さとがえるコンサートのツアーパンフのデザインと編集を担当するようになって、今年でもう6年目になるのだった。自分のイラストが最初に本に載って世に出たのも、実は初めて仕事を引き受けた「さとがえる」1998年のパンフだったりする(おそれ多くもイラストレーターの上田三根子さんとこっそり共演)。もちろんそんな仕事上のかかわりを抜きにしても、さとがえるコンサートの存在はそれだけで素晴らしい。90年代後半以降、音楽をめぐる状況がだんだん厳しくなっている中、主要都市をちゃんと回るツアーを一年も休まずに続けているのは奇跡的としか言いようがない。それを実現している矢野さんとスタッフの強い意志には、ほんとに頭が下がる思いがする。

さて、今年のライブ。96年から去年までずっと一緒だった、アンソニー・ジャクソン(ベース)、クリフ・アーモンド(ドラムス)の二人とは一旦別れて、さとがえる初の全編弾き語りソロ形式のコンサートとなった。演奏曲目も各会場でかなり変えているみたいで、東京の初日は、細野晴臣「恋は桃色」がオープニング。最近の矢野さんの主流となっているピアノによるカバー・スタイルの曲が次々続く。SMAP「しようよ」、THE BOOMとの共作だった「それだけでうれしい」、大貫妙子「横顔」、くるり「春風」などなど。ここまでだけでも十分満足だったけど、やはり矢野顕子はここまででは終わらなかった。

気持ちがすっかり和んできた中盤、小さなシェーカーを持ってスタンドマイクの前に立った矢野さんは、UAのシングル「閃光」のコラボレーションでも知られる、レイ・ハラカミ(デビュー時から大好きでずっと聴いている)のバックトラックに合わせて、細野晴臣「終りの季節」と自身の曲「David」を歌い始めた。レイ・ハラカミとは、2002年のくるり主催のイベント「百鬼夜行」で一度共演している。彼の作る浮遊感のあるトラックには時折、往年の坂本龍一の気配を感じることがある。まどろみの霧が一瞬で消え去り、背筋にひんやりとした緊張が走った。矢野さんがすごいのは、こうやって自分の築いてきたものを平気で壊して再構築できるところ。未知の領域に果敢に飛び込み、一瞬であたりの空気をクールに切り裂いてしまう。この瞬間を味わいたくて、いつも矢野さんのコンサートに行く。そしてできれば自分の表現もそのような領域に少しでも近づきたいと、ひそかに願う……。

この2曲から再びピアノに戻って新曲の「Night Train Home」へとつながるシークエンスが、この日のベストだった。アンコールで登場した小田和正との、オフコース「言葉にできない」とTHE BOOM「中央線」のデュエットも、本当にうれしい“突然の贈りもの”だった。
 

2005.7
rei harakami@LIQUIDROOM ebisu

7月9日(土)、雨が降りしきる中、リキッドルーム恵比寿のrei harakamiライブへ。天候にもかかわらず当日券は完売、前も後ろも動きが取れないほどの超満員。オープニングの「終りの季節」(インスト+映像のみ)に続いてハラカミ氏が登場。2004年の渋谷O-Eastでの第一興商主催のイベント(いま思えば矢野顕子つながりのテイ・トウワの直前に出演)で、初めて生で彼のライブを見て、自らマイクを握る「絶賛盛り下げ中です!」みたいなハラカミ節炸裂のMCにも衝撃を受けた。イベントでは長く演奏して4~5曲がせいぜいだから、今回のようにたくさんの曲をまとめて聴けるのはめったになくとても喜ばしいことだった。そんな晴れの舞台でも例のMCは変わらず(笑)。

曲は、最新作の『lust』以外では『opa*q』『red curb』からがほとんど。記憶が正しければ1st『UNREST』の曲はなかった気がする。クラブ・ミュージックとして機能させることを放棄してやりたいことだけを追求した『red curb』が、多くのミュージシャンに支持され、のちに彼の代表作になったことを思えば、この選択は正しかったと思う(聴きたい気持ちも正直あったけど)。そしてあまり耳を通してなかったこのアルバムを、もう一度ちゃんと聴いてみたいと思った。

途中から京都仲間でハラカミが「兄貴!」と呼ぶ、ダムタイプ高谷史郎氏が映像で加わり何曲か演奏した。難解ではないシンプルな映像で、時々音楽とリンクしてきて心地よかった。(『lust』のsuzukiskiの写真の雰囲気にも通じる)港湾の風景がずっと流れているときの曲が、個人的にはこの日のベストだった。レイ・ハラカミの奏でる音楽には、哀愁、郷愁など「愁」という文字が表わす感情(こんなとき表意文字は便利)をかきたてられることがある。たとえるなら、クラフトワークの「コンピュータ・ラヴ」とか。踊らずに少し下を向いて、音の響きを受け止めるようにして聴いていた観客が多かったのもうなずけた。

ライブとしては曲順・構成に留意するとさらにマジックが生まれるような気がした。今回みたいな長時間の一人ライブは今後も続けていってほしい。オールナイトではなかったので電車がなくなる前にライブは終了したが、あんな美しい音だったら何曲でも何時間でもアンコールしたいものだ。
 

2005.12
さとがえるコンサート2005(NHKホール)

毎年恒例の「さとがえる」。今年は久々にコンサートグッズをお手伝いしたこともあり、12月4日(日)のNHKホールでのライブに二年振りに伺うことができた。

2003年のさとがえるで突然披露された「終りの季節」で、レイ・ハラカミとのコラボはすでにはじまっていた。「終りの季節」は今年リリースされたアルバム『lust』に、「さとがえる」の時のバック・トラック+ハラカミさん本人の歌入りで収録された。同じ時期にはくるりとの共演も果たしていて、それは2004年のアルバム『ホントの気持ち』に結実した。矢野さんの2003年末以降の動きはそれまでに増して新しい時代へのアンテナが鋭く感じられるし、なんか堂々と吹っ切れていて頼もしい。

「あんたがたどこさ」や「SOME DAY」などの前半の流れも力強かったが、この日のハイライトはやはり上記の二者の曲だった。くるりはあまり多く聴いたことはなかったが、この日歌った「窓」〜「青い空」は凄かった。いつものことながら十年前からの持ち歌みたいに歌いこなしていた。そして今年もレイ・ハラカミとのコラボに持って行かれた。二年前と同じようにステージ前に一人で出て歌ったのは「気球にのって」(THE BOOMの、ではなく)。曲の終盤でピアノの方に戻りバック・トラックのエンディングに合わせてピアノで共演するあたりでは鳥肌が立った。さとがえるが以前と比べてシンプルになるにつれて、矢野さんのステージでの表現はよりRawで、剥き出しになってきているような気がする。久々の立花ハジメさんの舞台美術もかなりRaw、剥き出しそのものだったし。

長い長いアンコールの最中にアンプやギターが次々と運び込まれ、再び現われた矢野さんと一緒に“GOD”がステージに登場すると拍手は巨大な黄色い歓声に変わった。GODを観るのは夏の北海道のフェス以来だったから、もはや他人のような気がしなかった。GODは上下オール・ピンクのスーツに、蛍光イエローグリーンのスポーティーなブーツを履きこなしていた。とてもOVER 50とは思えない。昔在籍していたバンドのヒット曲、モンキーズの「デイ・ドリーム・ビリーバー」(ピアノ=矢野顕子)と、来年早々にリリースされる『はじめてのやのあきこ』というミニ・アルバムにも収録される「ひとつだけ」(これは感動した!)を矢野さんとデュエットし、足早にステージを去っていった。もうみなさんにはGODが誰だかおわかりだろう。今年はいろんな場面でGODに強い力で魂を掴まれた(心臓マッサージ)。GODに限らずOVER 50の人たち(矢野さんもそう)のパワーに瞠目させられることの多いこの一年だった。
 


このほかに思い出深いライブとしては、2004年9月11日に青山のレストランCAYで開かれたsoup-diskのイベント「silverization」(suzukiski、riow araiほかとの共演。この時がおそらく「joy」初披露)などがあげられる。

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